« (5)尿失禁の推移(グラフ) | トップページ

(6)前立腺癌罹患とQOL

1)癌告知時

癌告知を受けると、自分に残された時間と生活領域の限界を強く意識せざるを得なくなる。こうした運命を受容するプロセスは一般にはなかなか辛いもののようだが、幸か不幸か筆者の場合は1999年に発作性心房細動を発症した時点で、時間はかかったもののこうした限界を受容する内的な作業を既に済ませていた。加えて元々重い障害を持つ妻が癌を発症するという過酷な運命を背負ったことが、共に闘病してゆく事以外の事柄の優先順位を既に著しく低下させていた。従って筆者が癌告知を受けた時も、いったいどこまでという思いはあったものの、生活領域をさらに縮小し、現時点で日本における最高水準の治療を受けられる病院の担当医にすべてを任せる事に全く躊躇はなかった。

2)診断から手術までの時期

 担当医が病期や選択可能な治療方法を、それぞれのプラス・マイナスを含めて明確に開示してくれたため、自分の抱えるリスク(運命)を冷静・客観的に認識することが出来た。骨盤底筋体操も教えられた通り忠実に実行した。ただしその効果については、手術後の合併症(疼痛と尿失禁)が強く出たこともあって、はっきりと実感は出来なかった。

 

3)術後の合併症とQOLの変化

 合併症には個人差が大きいとの説明を受けていたが、悪いほうのシナリオになってしまった。詳しくは闘病記録に記載したが、退院後200日を過ぎた現在も、改善したとは言え、依然として15分程度を超える歩行や階段歩行、重いものの運搬などが疼痛や尿失禁を招来するため、生活領域の著しい縮小を余儀なくされる状態が続いており、退職を決意せざるを得なくなった。

 筆者の職業(大学教授)は交代要員の利かない数少ない職種の一つであると言える。学生に修得させるべき事項が定番的に決まっている基礎的な科目であればともかく、専門科目では自分の体系を講義するから、たとえ期中に病気で倒れようと、同僚の研究者・教員が成績評価を代行する事は事実上不可能なのである。ゼミナールや卒業論文の審査、学位の認定なども同様である。交代要員の利く職種であれば長期休職後は職場復帰を果し得る。しかし筆者は重い合併症が出た為、遠距離通勤や講義中の頻繁な「トイレ休憩」が事実上困難となった事に加えて、グリーソン・スコアが極めて高く、再発・転移による再治療開始の可能性が大きいため、休職後一旦キャンパスに復帰しても、その後再度長期休職を繰り返す可能性が高い事もあって、キャンパスを去る決断をせざるを得なくなった。現在は研究活動・学会活動を継続しつつ首都圏での大学におけるポストを探しているが、非常勤講師職も含めてまだ目途は立っていない。生活領域は極端に縮小したが、それなりの範囲で出来ることに集中すれば、まだまだ楽しく過ごせることが分かってきた。医学的根拠のない激励や善意の押し売りには辟易したが、最高の家族や静かに見守ってくれる真の友人たちに恵まれたことに感謝しつつ、どうせなるようにしかならないのだから気楽・気長に、というのが筆者の現在の心境である。

« (5)尿失禁の推移(グラフ) | トップページ