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2012年10月 2日 (火)

1954年・武蔵野市

【コーヒー・ブレーク】 

仕事を縮小して時間に余裕ができた機会に、昔懐かしい場所をあちこち散策してみることにした。そこに昔の面影が全く残っていなくても、長い間忘れていた記憶が鮮やかに蘇ることがある。

武蔵野市、春の穏やかな午後。小学校1-2年の頃毎日往復していた、バス停から学校の西門までの1キロ弱の道を四十五年振りに歩いてみた。当時と変わらないその閑静な住宅街の狭い道をバス停から学校に向かってゆっくり歩いて行くと、向こうから母校の制服を着た小さな男の子と女の子がのんびりと歩いて来るのが見えた。下校時刻なのだろう。この道を通学していた当時の私と同じぐらいの年頃の子供たちだ。女の子が前を、男の子がその少し後ろを歩いて来た。そしてその女の子がすれ違い様、私に

「後ろの男の子に用があるんで、呼んでくれる?」

と言ったのだ。なぜ自分で言わないのかな、と思いながら、私は男の子に

「ねえキミ、この子が何か用があるって言ってるよ」

と話しかけた。すると女の子が男の子に歩み寄り、

「一緒に帰ろう」

と誘った。ほほえましく思ってその男の子の顔を見た時、男の子も私の顔を見上げた。あれ、どこかで見た事のあるような子だな、と思ったが、二人の子供たちが一緒にバス停の方向へ歩き始めたので、私も学校の正門の方へ再び歩を進め始めた。その時、四十五年前の記憶が突然鮮やかに蘇ったのである。

小学校二年の時、同じクラスの一人の女の子に好意を寄せられていた。小生意気で大人びた感じの、友達のいない子だったが、こちらも学校ではほとんど口を利かない変わり者だったから気に入られたのだろう。帰る方向が途中まで同じだったが、疎ましくて一緒に帰ることはわざと避けていた。あの日もその女の子の後を少し離れて歩いていると、向こうから初老の男性が歩いてくるのが見えた。女の子がその人に歩み寄って何か言っていたが、そのまま横を通り過ぎようとした時、その人が私に

「ねえキミ、この子が何か用があるって言ってるよ」

と話しかけて来た。驚いてその人の顔を見上げた時、彼の私への視線に何だか懐かしい暖かさを感じたのだった。

そうだ。あの男の子は昔の私自身だ。そう確信して後ろを振り返ると、バス停はまだ遠いのに、もう二人の子供の姿はどこにも見えなかった。きっとタイム・トンネルの彼方に戻って行ったのだろう、と思った。四十五年前のあの時、私はきっとタイム・トンネルの入り口を覗いていたのだ。

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