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2009年8月12日 (水)

総選挙後のポートフォリオ

 衆議院選挙の投票日までにまだ2週間以上あるので、今のうちに総選挙後の株価や為替相場に影響を及ぼすリスクファクターとポートフォリオについて考えておこう。姜尚中は1Q84のブレーク現象に関して、村上春樹特有の「考えさせる」物語の展開が、極めて浅い次元の思考に基づいて短絡的に判断し行動する現代日本のマジョリティーにとって極めて新鮮だったのではないか、という趣旨の興味深いコメントを行なっている。今回の総選挙の大きな特徴は、まさに姜尚中が言う、深く考える習慣がなくマニフェストも読まない層が初めて主役を演じ、人気投票感覚で選挙の結果を左右しようとしている点だ。この事が今後のポートフォリオ戦略に対して無視し得ない影響を及ぼす。

1930年代の世界恐慌以降における主要国の政治と経済の動向は、新古典派対ケインジアンという対立軸を視座に置くと分かりやすい。言うまでもなく米国や先発EU各国の二大政党は、一方が新古典派を、もう一方がケインジアンをはっきりと代表しており、それぞれの基本的立場・理念に基づいて選挙公約が作成されるが、日本では1969年の第32回総選挙で日本社会党が惨敗して以降、この対立軸がどちらも自民党内に(現在では民主党内にも)取り込まれて選挙民からは見えにくくなった。前回の衆議院選挙は、表面的には郵政事業の民営化をめぐって新古典派対ケインジアンという対立軸で争われたように見えるが、実態は選挙民のマジョリティーの投票行動が実質的に人気投票であることを見抜いたポピュリストたちの圧勝であった。郵政事業の民営化は精巧に作られたルアーだったのである。本来の意味の二大政党体制であれば、今回の総選挙は選挙民が前回の選択の結果を再評価し、今後の方向性についてのコンセンサスを意思表示する性格のものになる筈だ。だがそうなっていないのは、自民・民主いずれもがこうした両極端の争点を内部に抱えている矛盾をうまく説明できない事に加えて、民主党が前回の与党戦略からポピュリズムの要諦を学び、お株を奪うのに成功しつつあるからである。今回の両陣営のマニフェストは自民・民主どちらもポピュリズムのオンパレードであり、哲学とまでは言わないにしても基本的なアイデンティティ(誰をステークホルダーとして想定しているのか)さえ感じられないのはこのためだ。加えて宮崎県、大阪府などでは勘の良いポピュリスト首長がこの流れを巧みにとらえ、正面切って地域への利益誘導を主張し始めた。地方自治体においても新たな形での地域ポピュリズムが芽生えているのだ。

こうした中央・地方ともにポピュリズム競争を展開する中で行なわれる今回の総選挙の結果、自公・民主どちらがマジョリティーを制したとしても、日本が持続的経済機能不全状態に陥ることは免れまい。どちらの陣営も、持続的に政権与党であり続けようとすればするほど、財政の圧迫とコミットしたポピュリスト政策とのジレンマに陥るからだ。そこからの出口はハイパーインフレしかない事は別ログで論じた通りである。(200959日付「経済危機はもう終わったのか」を参照)これこそが総選挙後の政体における最大のリスクファクターだ。総選挙後の政体は、政策機能が脆弱であるという意味で、擬似新古典派型の「意図せざる小さな政府」になる。ハイパーインフレが避けられない日本経済と円に対する国際的・評価は、一時的・短期的なアップダウンはあっても、長期的にはベアリッシュなものとなるだろう。だとすると円も日本株も基本ポジションはショートが正解だ。「政界再編成」の名の下に単なるオポチュニストたちによる理念なき離合集散が起きたりすれば、ベア・シナリオが一段と加速しよう。なおナマ株については、民主党がスケープゴートにしようとしている銘柄の急落にくれぐれも要注意だ。

では、日経平均も円も上昇するシナリオはあり得るのだろうか。唯一の可能性は国際的に評価される政界再編が起こる事であるが、それには各政党の基本的な理念(アイデンティティ)と、他党との対立軸の明示が不可欠だ。現在の政治グループの中で、日本経済の将来設計について最も明確で対照的な青写真と理念を有するのは、その内容の当否は別として「自民・小泉派」と国民新党だ。この二つのグループを対立軸として、自民・民主両党の議員がそれぞれのステークホルダーの立場や自己の信条に基づいてどちらかに集結してゆく形の分かりやすい政界再編=新たな二大政党体制が出来上がれば、誰が誰の味方なのかがはっきり見えて来るから、避けて通れない利益誘導やポピュリズムともある程度折り合いをつけやすくなり、持続的かつ首尾一貫した政策機能、とりわけ最大のリスクファクターであるハイパーインフレの抑止に関する施策を実行できる機能を備えた政体の樹立が可能になるのではないか、と期待している次第である。

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