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2006年6月21日 (水)

地域通貨とエコマネー

 民間組織が発行する私的な擬似通貨が注目を集めている。国民通貨と併用されるこうした私的通貨は、通常その流通が特定地域の住民や特定組織の会員に限定される為に「地域通貨」や「コミュニティー通貨」、また地域におけるボランティア活動の活性化を後押しする仕組みとして「エコマネー」などと呼ばれる事が多い。こうした私的通貨は日本でもかつて藩札や軍票として発行されたことがあるが、今改めて注目を集めている背景には、小泉・竹中らの狂信的新古典派信奉者たちが堀江や村上の暴走を許したのであり、「額に汗して(大鶴東京地検特捜部長)」稼ぐ「おカネ」と投機に使われて自己増殖する「マネー」とは区別するべきだという、内橋克人流のリビジョニストたちの思いがある。マトモで真面目な「おカネ」を金融の主役として復活させる仕組みとして擬似通貨が注目されているのだが、通貨論の知識を欠いた、熱い理想に支えられただけのアイデアや思いつきでは私的通貨が有効に機能する筈はなく、その限界や問題点が次第に明らかになってきている。以下こうした擬似通貨の歴史、特徴、課題についてまとめてみた。

(1)地域通貨(私的通貨)の原型

★W.H.Caslowの1933年の回復証明書 
シカゴの新聞社のオーナーが社員に支払う給料の一部として額面金額1ドルの「回復証明書」と呼ばれる証明証を発行。社内の買い物に使用できたが、保有者は毎月2セント分の証紙を合計54回まで新聞社から購入して貼付しないと流通できない(デマーレッジ=通貨を使用しなかった場合の罰)。結局新聞社の倒産により破綻した。通貨というよりも詐欺行為に近いものであった。

★ラーキンの1933年の商品券
バッファロー(ニューヨーク)に本拠がある食物およびガソリンの流通業者のオーナーであったラーキンが、従業員に対する給料の一部に充てる為、同社グループの百貨店の商品券を発行した。本質は給料の現物支給であったと言える。

★1930年代初、アメリカの300以上の地方自治体
地域限定流通の地域通貨が数多く発行された。財政赤字対策及び通貨の流通速度の加速により消費を活性化する狙いから、デマーレッジが付けられていた。

★1930年、ドイツのWara
バイエルン(ドイツ)の炭坑の所有者が鉱夫への給料支払のためにWaraと呼ばれる通貨を発行。Waraはデマーレッジの付いた「スタンプ通貨」(毎月その所有者は額面価格の2%と等価なスタンプを購入して添付しなければならない)であった。ドイツ当局が1931年に無効にするまで、ドイツで2000以上の企業が発行した。

★1932年、オーストリアのWorgl
オーストリアが失業対策の為の公共事業に一時的に雇用された労働者への賃金の支払い用に発行した労働証明書。月当たり1%のデマーレッジ付き。本質は、地方自治体の財政赤字対策としての市債。

以上の私的通貨に共通するのは、流通を強制するための仕組みとしてデマーレッジが組込まれていたことである。

(2)現代の地域通貨

★タイム・ダラー
エコマネーの原型。 1980年代初頭、アメリカで開始されたサービス・信用の交換システム。参加者が行ったボランティア支援活動時間を「タイム・ダラー」というサービス・ポイントに換算して貯めることができる。1タイム・ダラーの供給者は、他の会員から1時間のサービスを受けることができる。(例えば1時間ボランティアで公園の清掃活動を行い、1タイム・ダラーを貯めた人は1時間分のボランティア活動(例えば病気になった時の家事の支援)を受けることができる。

★LETS
エコマネーに商業性を付け加えた、1983年にバンクーバー(カナダ)でマイケル・リントンが開始した会員制地域通貨。各会員が各自提供できる財・サービス(中古自転車・犬の散歩・庭の草取り……)のメニューを作って登録し、値段を「グリーン・ダラー」で表示する。財・サービスの物々交換の仲介手段。

★HOUR
Edyの原型。1991年イサカ(ニューヨーク、フィンガー・レイク湖地域)でポール・グローバーをはじめとする市民グループが、地元農民間での農作物の物々交換取引促進を狙って考案した地域通貨。Ithaca Hours社(NPO)が発行しており、無利子ローンの制度もある。会員以外の一般観光客などもHOURを購入すれば加盟商店、レストランなどで利用できる。幸運と繁栄の象徴であるヤモリを図案化した紙幣(In Ithaca We Trustの表示あり)を発行しており、観光資源としても活用。

★WIR
スイスで1934年に始められ、現在も残存している会員制の地域通貨。会員はWIR(協同組合)で口座を開き、通貨としてのWIR( 1スイス・フラン=1WIR)を購入して会員同士の取引に使用する。スイス・フラン(SFr)の代わりにWIRを使用する利点は会員限定特別割引価格の適用。

(3)私的通貨の問題点

★通貨発行主体の信用リスク。発行主体が破綻した場合に私的通貨の保有者がどこまで保護されるかが明確に開示されているか。

★Exit Option。入手した私的通貨を国民通貨に戻すなどの方法により売却することについて制約・リスクはないか。

★行政のモラル・ハザード。地域振興などを狙いとする私的通貨の場合、ボランティアの好意に甘えて本来行政が行うべき公共サービスが手抜きになっていないか。(地域通貨を貯めても、必要な時に必要な質のサービスを受けられる保証はあるのか)

(参考文献は静岡産業大学経営研究所「環境と経営」第8巻第2号の26-27頁に掲載)

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2006年6月19日 (月)

福井日銀総裁はゼロ金利政策解除と株価下落との関係を知っていたのか

 償還期限がない国債(=永久債、Perpetual Bond)を購入すると毎年必ずD円の利子を受取ることができるものとする。 市場利子率(年率)をrとすると、この永久債の価格(P)は将来受取ることができる利子全部の現在価値の合計であるから、無限等比級数の和を計算すると

P=D/r

となる。例えば市場利子率(年率)が将来とも1%である時、毎年1万円の利子を永久に受け取ることができる永久債の価格は

1÷0.01=100(万円)

である。(いま手元に100万円あれば、将来とも利子率(年率) 1%で運用すれば毎年1万円の利子を永久に受け取ることができる、と考えてもよい。)

 ここでDを配当金と読みかえると、上の式は収益還元法による優先株の価格決定式となる。またDを期待企業業績(将来の期待される配当+ネットワースの増加分)、rを期待市場利子率と読みかえると、Pは株価をあらわす概念となる。昨年1年間で日経平均が40%以上も上昇したのは分子であるD(期待企業業績)が大きく増加した為だ。一方今年に入ってからの株価の下落は分母であるr(期待市場利子率)の上昇が理由である。景気が良くなりDが2倍になったとしても、rが2倍をこえて増加すれば株価は下ってしまうのだ。まさか金利が突然何倍にもなることはない、と思う人もいるかもしれないが、これがゼロ金利政策のツケの怖さだ。0.1%の金利が0.3%になるだろうと思うだけで期待金利は3倍になった事になる。ゼロ金利からの出発の場合はこの程度の金利上昇は初回の利上げの範囲内にすぎないが、その場合期待企業業績も3倍以上に増加しない限り、株価は下落してしまうのだ。

 日銀のゼロ金利政策解除と福井日銀総裁の村上ファンド解約との関連を立証することは難しいだろう。だが少なくとも、どんなファイナンスの教科書にも出ている

P=D/r

という式から「日銀がゼロ金利政策を解除すれば株価は大きく下げる」という帰結が生じる事を福井総裁が熟知していたことだけは間違いないのである。

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2006年6月 6日 (火)

インサイダー取引とオフサイド・トラップ

 村上ファンドはどこが悪くて立件されたのか。来週のゼミで誰かが必ず話題にすると思うので、議論が散逸しないようにあらかじめポイントを整理しておこう。尚ゼミ生はライブドア立件に関する次のバックナンバーも見ておくこと。

2006年1月18日 「地検特捜部の親指」
2006年1月19日「マックスバリュとライブドア」
2006年1月23日 「ライブドアのどこが悪い?」

ポイント(1)地検特捜部の村上立件の動機は何か
 
 東京地検特捜部の大鶴基成部長は、検事を志す人々に検察の仕事を紹介する法務省のウェブサイト上で「闇の不正と闘う」と題して次のように述べている。

「額に汗して働いている人々や働こうにもリストラされて職を失っている人たち、法令を遵守して経済活動を行っている企業などが、出し抜かれ、不公正がまかり通る社会にしてはならないのです。」
http://www.moj.go.jp/KANBOU/KENJI/kenji02-01.html

 この発言にあなたは賛同するか、それとも違和感があるだろうか。何か違和感があるとすると、それはおそらく大上段に振りかぶった「闇の不正と闘う」という意気込みと刑量とのアンバランスだろう。村上が問われる証券取引法違反の刑事罰は3年以下の懲役又は三千万円以下の罰金にすぎず、またライブドア・村上ファンドいずれの場合も、大きな損失を被ったのはリスクを百も承知のプロの投資家であり、耐震強度偽装事件などに比べると一般市民の被害は小さい。だから、自らを「闇の不正と闘う」と使命付ける地検特捜部のターゲットが「闇の不正」をはたらいた堀江や村上の処罰にすぎないとすると、いかにも仕事が軽すぎるのだ。むしろ地検特捜部の真のターゲットは堀江個人・村上個人の犯罪の摘発ではなく、カッコつきの「時価総額経営」「株主主権」「コーポレート・ガバナンス」といった、エスタブリッシュメントにとっての「目の上のタンコブ」を退治することだったのではないだろうか。

ポイント(2)村上ファンドは今後どうなるのか

 投資家は単純にリターンを見て村上ファンドを買っていたのであり、特に日本の「コーポレート・ガバナンス」のあり方を変革する事を支持していたわけではないから、立件を機に利益を確定してExitするだろう。解約率は100%近くに達すると思われ、村上個人は微刑に終っても村上ファンドは地検特捜部の狙い通り退治されて消滅するものと思われる。

ポイント(3)村上はなぜ単純な違法行為を犯したのか

 ライブドアの違法行為の本質は自社株の株価上昇を自社の収益として計上したことであり、その為の手段として投資事業組合や株式分割、粉飾決算といった凝った仕組みが使われたが、村上ファンドの違法行為は誰の目にも明らかなインサイダー取引である。「プロ中のプロ」を自認する村上がなぜこのような単純な違法行為を犯したのか。オフサイド・ルールを知らないサッカー選手はいないのにオフサイドを取られるのは、オフサイド・トラップに嵌るからだ。村上立件の契機は堀江・宮内の供述だが、彼らを誘導してディフェンス・ラインを上げさせた勢力があったのではないだろうか。

 キャリアの法曹集団である地検特捜部が守ろうとしている権益は何だろう。その背後には「エスタブリッシュメント」という真の巨大な「闇」が見え隠れする。

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