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2006年3月16日 (木)

2006年は「市場正常化」の年

 ゼミのOBであるY氏から、またブログ更新をさぼっているようだが何かないのか、と言ってきた。実は昨年12月以来のブログを見ていただくと分るが、予測してきた事が全部当っているので、今の市場にはあまりコメントすることがないのだ。とはいえ世間話のネタ帳のブログだから、一部繰り返しになるが今年のポートフォリオ戦略のポイントをまとめてみよう。キーワードは「市場の正常化」または「コンベンショナル・ウィズダムへの回帰」ということになる。

 2005年はエクイティの年だった。昨年8月11日付のブログ「株価の上昇は『まだ』か、『もう』か?」では、いまエクイティのポートを増やさないのは不作為の罪、と書いたほどだ。この日本株の国際的な過小評価是正が2005年末まで続いたあと大相場が終了し、何でもいいから株さえ買っておけば良かった時期はもう過ぎて、今は株価が個別の企業業績などの材料によって上がりも下がりもする正常な市場に戻ったのだ。NYダウはやっとの思いで「よっこらしょ」と11,000ドル台に乗せたものの上値が重い。ようやく金融引締めの効果が出はじめて異常な住宅バブルが天井を打った為、資産効果を追い風にした過剰消費にブレーキがかかってきたからだ。米国短期金利の上昇がやっと長期金利に波及し始め、去年グリーンスパンが「謎」といぶかった、金融引締め下での長期債価格の高止まりがもたらした逆イールド現象が解消に向っている。米国経済も金融市場もわかりやすい正常な状態に戻ろうとしているのだ。米国長期金利の先高感で高金利のエマージング債からドルに資金が逆流しはじめたため、ファンダメンタルズから乖離して提灯をつけていた中南米株が今月に入ってブラジル、メキシコ、アルゼンチン、チリ、コロンビア、ベネズエラと、軒並み2004年5月以来最大の下げを記録している。中南米株も正常化したのだ。

 日本ではようやく金融政策が正常化への第一歩を踏み出した。量的緩和が終了し、次の焦点はゼロ金利政策終焉のタイミングに移った。2月23日付のブログ「量的緩和の解除とポートフォリオ戦略」で予想した通り中長期債券価格が急落しており、JGBの利回りが5年で1.2%、10年が1.7%まで上昇する過程で昨年12月以降一時失われていた株価と債券価格とのトレード・オフが、特に中期ゾーンではっきりと復活した。わかりやすいコンベンショナル・ウィズダムが戻って来たのである。モメンタムを失った日経平均は、こうした中長期債の価格下落(金利上昇)に背中を押されて何とか16.000台前後のレベルをかろうじて維持しているだけだ。そしてもう一つコンベンショナルへの回帰という点から注目すべきは、昨日(3月15日)の春闘の決着である。2006年春の賃金労使交渉(春闘)で自動車や電機大手が5年ぶりの賃金改善に応じたのだ。これにより2002年以降続いてきた企業の賃金抑制は大きく方向転換した。もちろん業績や賃金制度の違いを反映して業種や企業によって回答のばらつきはあったが、トヨタは賃上げ・一時金とも満額回答だ。景気回復がこの背景にあることは当然だが、企業の考え方がこれまでの「株主主権」一辺倒から、かつての「従業員主権」寄りに多少軌道修正する動きが出てきたところに大きな意味がある。これもコンベンショナルへの回帰だ。

 会社は誰のものか。今日は卒業式だったのだが、3年前の卒業式が終ったあと、ある卒業生が「4年間経営学部で学んだけれど、会社は本当に100%株主のものだと言い切っていいのか、先生はどう思いますか」というメールをよこしたことがあった。長引いたデフレの下で日本人は全員自信喪失モードに陥り、小泉・竹中の市場至上主義にあまりにも長く飲み込まれすぎてコーポレート・ガバナンスの考え方は一時「株主主権」一色となった。海外の旺盛な需要に対応して設備投資をはじめとする主な経営資源は専ら海外拠点を中心に配分され、企業収益はここ数年間海外事業の好調を反映して連結決算ベースでは史上最高益を更新し続けてきたが、国内での雇用・賃金は抑制され、国内での雇用形態が正社員から派遣社員・パート社員へと大きくシフトした。このため企業収益が絶好調なのに経済が長い間デフレから脱出できなくなり、この過程で「株主主権」は堀江の時価総額経営へ、さらに村上の脅迫ファンドへとエスカレートし、そして自壊しはじめたのだ。だが労働市場は既に昨年コンベンショナルに回帰しはじめた。採用が売り手市場に大きく転換する中、派遣社員から正社員への逆シフトが始まったのである。昨年多くの経営者から「派遣社員には高いモラールや忠誠心を期待できない」「サービス残業も頼めない」という声を聞いた。こうした流れの中で今年の春闘で多くの企業が経営資源を労働者に戻しはじめ、「従業員主権」の復権がはじまったのである。

 市場が正常化してコンベンショナル・ウィズダムに回帰してくるとなると、ポートフォリオ構成は当然エクイティーからFixed Incomeへのシフトを進めることになる。エクイティーはスクイズして長期投資銘柄に絞り、エクイティー・ファンドはロング・オンリー・タイプからロング・アンド・ショート・タイプにシフトする。円債は市場が神経質なので、パニック的に売られる局面も利用しながらディーリング的にこまめに持ち値の手入れを行いつつスクイズして行く。そして厚くなったキャッシュの投入先は、Fixed Incomeを一ひねりしたJ-Reitや、円投でのエキゾチック・ハイイールド債を見直してはどうだろう。ただ南ア・ランド債は流動性に難があり、またランドの対円為替売買幅が極めて大きく、多少の金利差ではカバーできないため、ここは豪ドル債を中心に考えたい。ただし今は為替が対円で高所恐怖症的水準にあるから、ここしばらくはもう少し為替を慎重に見極めて行くつもりである。

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