« 2006年2月 | トップページ | 2006年4月 »

2006年3月29日 (水)

ACUがピンチ?

 3月27日付のFT(2面)が、かねてADB(アジア開発銀行)が準備を進めているACU(Asian Currency Unit)のローンチが難航中だと報じている。(ACUについては昨年国際金融論で説明済。忘れた人はノートで確認しておいて下さい。)その理由はバスケットのナカミがなかなか決まらない為で、本来の発想は「アセアン+3」の通貨なのだが、人権問題やマネー・ロンダリング疑惑のあるカンボジアやブルネイを入れる事については反対論があり(それにしてはミヤンマーが名指しされていないのはなぜだろう?)、他方パン・パシフィックを視野に入れるなら豪ドルや香港ドル、台湾ドルを入れるべき、いやそれは中国が認めない、等々議論の収拾がつかなくなっている由。このため黒田総裁も若干トーン・ダウンして来ていて、ACUはECUとは異なりアジア通貨の参照値にすぎない、名称もACI(Asian Currency Index)に代えようか、とか、幾通りもの異なるコンポーネンツのACIを作ってもよい、というような話が出ているとの事。

 ファイナンスの現場を離れてもう7年になるのでこのFTの記事の当否を判断できないが、これがある程度正確だとすると、ここまでトーンダウンしたのでは何の為にACUを創設するのか分らなくなる。作る以上は使うことが前提であるべきだ。だがADBの言う通り、ECUはACUのモデルにはなり得ない。ECUはあくまでも欧州の経済統合が進んだ結果として存続可能になった通貨バスケットであり、はじめに共通通貨ありきだった訳ではない。その経済統合も、昨年掲載した「EU統合の行方」(1-10)で論じたように、そもそもEU25自体がすべてキリスト教国であるからこそ可能だったのであり、回教国であるトルコ一国のEU加盟問題が欧州憲法条約の否決にまで広がってしまったほどだ。(これも「憲法」の二字を外し、トーン・ダウンして生き返らせる構想が独仏間で検討されていると先日FTが報じていた。)仏教あり、回教あり、キリスト教あり、儒教ありの「アセアン+3」ではEU型の経済統合やECU型の通貨バスケットは非現実的だ。むしろ「使い方」という点からすれば、ACUがモデルとすべきはSDRではないだろうか。ADB出資国の比率に応じたバスケットにしてADBのすべてのアカウンティングをACU表示とし、さらにADBの与信も起債もすべてACU建てとする。1980年代初頭、ユーロSDRデポを民間として初めてニューヨークに導入した私自身の経験からしても、ここまで御膳立てをすればACUの民間でのUsageは必ずついてくる。為替先物業者ではあるまいし、単なるアジア通貨のindexなどいくら作っても面白くも何ともないではありませんか?

| | コメント (0) | トラックバック (0)

ベン・バーナンキの初仕事とポートフォリオ

 FF金利の引上げと言えばマーケットの反応は「想定内」「折込み済」が定番だが、今回は違った。ディーラー達のコメントはいつものように「予想通り」であったが、マーケットの反応は虚を突かれて狼狽気味である。バーナンキの初仕事は大成功のようだ。

 3月28日、バーナンキFRB議長が初めて主宰したFOMCがFFの誘導目標を0.25ポイント引き上げて4.75%とした。2004年6月以来15回目の利上げだ。 ここまでは想定内であったが、FOMC声明が「資源利用が拡大する可能性があり、これが高水準にあるエネルギーなどの商品価格と相俟ってインフレ圧力を高める可能性がある」とし、「さらなる引き締めが必要になるかもしれない」と指摘して「利上げ打止め」期待に冷水を浴びせた事がサプライズだったようだ。もちろん今後利上げが打止めになる可能性もあるが、いずれにせよ金融政策はFRBの専決事項である事を改めて宣言したわけで、どこかの中央銀行とは大違いだ。

NY市場の反応はNYダウが11,154(-96)、TN(10)が4.78%(+0.08)と、株も債券も急落だ。ただ時差でNYに先行する欧州でも債券は売られていて、ギルツが4.42%(+0.05)、ブンズが3.73%(+0.09)と、ギルツの対ブンズ・スプレッドが0.7%を割込んでしまったのには目を疑った。金利差で買われて来た通貨には売りが出そうだ。また欧州でも株価と債券価格のトレード・オフが消失しており、ダウ欧州50は3,498(-18)と、こちらも3,500を割込んで債券と共倒れだ。果してFF利上げをあらかじめ織込む動きだったのか?今日(29日)の欧州市場は要注目である。

 シドニーでは豪ドルが売られている。豪米の政策金利格差は0.75ポイントと、2001年4月以来で最小となったのだが、さらに金利差が縮小するとの見方が強いようで、金利差で買われて来た豪ドルのロングは取り崩しが続いている。既に豪ドルは年初来3.8%下落して1年半ぶりの低水準にあるのだが、依然として下げ止まらない。本日(29日)の市場では昨日の0.71米ドルから0.702まで急落している(東京、正午現在)。NMロスチャイルド(オーストラリア)のベアリッシュなコメント(年内に0.65米ドル)も影響しているようだ。

 今日は東京でもJGB(5)が1.3%目前、 (10)が1.75%超えと、債券価格が下げ止まらない。世界中の債券も株も、さらに豪ドルまで下落となると、エクイティやReitを利食ってキャッシュを厚くした投資家(私のこと)は現物では買うものがなくなってしまう。仕方なく取り敢えず日本株を買っておく、という買い方が今日の東京で、16,800台に乗せたが、短期の裁定はともかくとして中期ポートはここが我慢のしどころ、固め急ぐのは禁物だ。狙うなら豪ドル債だが、為替は現水準から3円下、80円割れまでじっくりと引きつけたいところである。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2006年3月23日 (木)

公示地価と株価

 本日(3月23日)の日経平均終値は6円安の16,489円。昨年央から年末まで続いた日本株過小評価是正の流れの中で主役として相場を引っ張ってきた銀行、不動産、輸出関連銘柄の天井感が一段とはっきり確認された中で、しこたま仕込んでおいた純資産倍率の低い低位株が軒並み急騰。半端ではない値上がり幅だ。このブログの「ポートフォリオ」編で繰り返し分析・予想してきた通りの展開で、これだからポートはやめられない。こうした過小評価是正の買いは逆流しないので、いったん火がつくとダウンサイド・リスクが小さくなる上に、低位株なので上値期待がまだまだ大きい。

 こうした低純資産倍率銘柄の上昇の理由は、もちろん東京の公示地価の上昇である。国土交通省が今日発表した2006年1月1日時点の公示地価は、東京都が全用途平均で前年より1.4%上昇し、15年ぶりのプラスとなった。他地域でも地価の下落率が継続的に縮小しており、資産価格の上昇は「もう」ではなく、「まだ」始まったばかりだ。量的緩和の解除で債券価格が急落し、まだ底が見えないことも株価にとっては追い風だ。果報を寝て待つ中期ポートの醍醐味がまだまだ楽しめそうである。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

逆イールドについてのバーナンキのコメント

 3月22日のブルームバーグがキャロリン・ボームによる「米連邦準備制度理事会(FRB)議長、利回り曲線に2つのシナリオ」と題する興味深い記事を配信しているので紹介します。その骨子は以下の三点。

(1)バーナンキがニューヨークのエコノミック・クラブで20日行った講演の中でイールド・カーブについてコメントしたが、これを報じたワシントン・ポストの見出しは「一段の利上げについては不透明」、ブルームバーグ・ニュースは「バーナンキFRB議長は利上げ継続を示唆」、ビジネス・ウィークは「追加利上げについてのヒントはほとんどなかった」、ロサンゼルス・タイムズは「議長は追加利上げ見通しをあらためて確認」と、同じ講演会での発言の解釈がバラバラであった。その理由は発言内容が「かなり学問的」すぎてわかりにくかった為で、明確な意思伝達と透明性を高く評価するバーナンキ自身はこれらの記事を読んで愕然としたことだろう。

(2)バーナンキはイールドカーブが現在のフラットな形状に至った理由について2つのシナリオを示し、長期金利が利上げに反応して上昇しない理由がどちらであるかによって金融政策の方向が「決定的に左右される」と述べた。 バーナンキの第1のシナリオは「長期金利の低さの理由が期間プレミアム(長期資産保有のリスクに対して投資家が求める上乗せ利回り)縮小である場合は、その影響は金融面で景気刺激的であり、一段の引き締めの必要性を示唆する」、第2のシナリオは「長期金利が現在または予想される今後の景気の状態を反映している場合は、完全雇用を達成させる「自然金利」が低下しているのだからその対策はFF金利を低下させてイールドカーブをスティープ化させることだ」というものだ。 だが筆者(キャロリン・ボーム)の見解は、フラットないし逆イールドは単に貨し手と借り手が市場で決める金利(Snape注:中長期債券利回りやスワップのこと)に対して、中央銀行が決める金利(同:FFのこと)が高過ぎることを示唆するにすぎない、というもの。

(3)景気の先行きを示唆する指標はイールドカーブだけではない。米民間調査機関のコンファレンス・ボードが発表する景気先行指標総合指数(LEI)の半期ごとの変化(年率換算)は2003年7月の10.8%上昇をピークに鈍化し、現在のペースは2.9%上昇となっている。これは50年間の平均(2.7%)に近いから、今後アメリカの景気は上昇に転じるのではないか。

 ブルームバーグにしては骨のある読みごたえのある記事だ。特に(2)の末尾に紹介したキャロリン・ボームの見解には賛同できるが、さらに論点を整理したい学生諸君は2005年12月29日 付のブログ「イールド・カーブの金融論」を参照して見て下さい。  

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2006年3月22日 (水)

国際金融市場としてのロンドンとニューヨーク、そして香港と上海

 昨年掲載したブログ「人民元の実験が始まる(1-3)」では、「開放経済のトリレンマ」仮説に基いて中国における「一国二通貨」制度の将来を展望する中で、なぜ香港ドルが現在のカレンシー・ボードから解き放たれ、国際通貨制度史上前例のない「管理された巨大な資本取引通貨」へと変貌して行くのかについて概説した。それでは香港は他の国際金融市場と比べて今後どのような個性を発揮し、また同じ中国の巨大な金融市場である上海とはどのように棲分けて行くのだろうか。このテーマを考えて行く上では、世界の主要な国際金融市場の生い立ちや特徴を把握しておくことが格好のモノサシとなる。そうなるとまずはロンドンとニューヨークだ。BIS(国際決済銀行)は3年ごとに4月の外国為替とデリバティブの主要市場ごとの取引高調査を実施しており、詳しい計数はBISのホームページで見ることが出来るが、ロンドン、次いでニューヨークの二大市場の規模が突出しており、この二大市場に次ぐ東京市場の取引高は、最新データである2004年4月のデリバティブ取引においてロンドンの6%、ニューヨークの10%程度に過ぎない。

 ロンドンとニューヨーク。この突出した二大国際金融市場は、しかしながらかなり異なる生い立ちと個性を有している。理解を容易にするために敢えて極言すれば、ニューヨークが巨大な米国経済と表裏一体の、膨大な実需取引を裏付けとするキャッシュ中心のオン・ショア市場であるのに対し、ロンドンは特に英国経済と強く結びついているわけではなく、生き馬の目を抜くような裁定取引が中心の、絶えず金融技術革新が行なわれている規制のない洗練された巨大なオフ・ショア市場である、と言える。国際金融ビジネスのプロたちは国籍や所属組織とはかかわりなく、駈出し時代の生い立ちに応じてロンドン派とニューヨーク派とに分かれていて、ロンドン派はニューヨークを実需に依存する泥臭い市場であるとこき下ろし、ロンドンこそプロフェッショナルが腕を振るうにふさわしい洗練された真の国際市場である、とする。一方ニューヨーク派は(私も含めて)ロンドンなぞ所詮実態のない裁定取引が主体の根無し草であり,ニューヨークこそ実体を伴う懐の深い人間臭い魅力にあふれた市場である、とする。

 両市場が別々の道を歩み出したのは、1933年と35年に米国の銀行法が改正され(別称グラス・スティーガル法)、銀証分離政策が確立されたことが契機である。銀証分離の狙いは銀行業・証券業ともに独立採算を貫くことにより、一方を他方が支援したりサポートすることなく、それぞれが独力でサバイバルできる体力をつけることである。ちょうど親鳥が成長した雛を巣から追い出して巣立ちを促し、単独で餌を取れる強い雛だけを次世代に残そうとするのに似ている。植物なら温室ではなく原野に植えて自然淘汰に任せる方が強い種が残ると考えるのだ。これに対して欧州のユニバーサル・バンキングは、今は未成熟で赤字だが将来重要になると考える証券部門を、成熟した銀行部門と同一の企業体の中に置き、両部門のシナジー効果を引き出してビジネス面・収益面でのさまざまな支援を行って育成するという考え方である。鳥の雛には十分餌を与えて単独で生きられる力をつけさせてから巣立ちさせるほうが強くなる、植物なら原野に放置するよりも肥料を与え、よく手入れをして育てたほうが強く育って大きな実をつけると考えるのだ。米国には銀行業・証券業それぞれが生き残れるだけの大きなパイ(経済規模)があったから、まずは銀行業・証券業それぞれが特徴を生かして資金余剰部門から不足部門への円滑な資金循環を実現することが優先され、洗練された金融商品の開発や金融の国際化は二の次であった。これに対して欧州では、個々の国のパイ(経済規模)では遠く米国に及ばないから、将来重要になる産業は競争にさらすのではなく保護・育成するという考え方がとられた。また欧州各国は政治・経済ともに密接に関連し合っていて、最初から国際金融ビジネスが当たり前のこととして存在しており、そうした環境の中で勝ち残るためには規模の経済に依存するのではなく、工夫をこらした金融商品の開発を間断なく続ける必要があったのである。

 だが現実の国際金融ビジネスは、ロンドンとニューヨークの異なる個性を「いいとこどり」して成長してきた。一例を挙げると、JPモルガンとモルガン・スタンレーは共にそれぞれ独立したグローバルな投資銀行であるが、元々は米国籍の同じ金融機関であった。グラス・スティーガル法の施行を受けてJPモルガンは銀行業専業となり、証券部門がモルガン・スタンレーとして独立してコーポレート・ファイナンス・ビジネスを得意とするグローバルな投資銀行へと成長した。一方JPモルガンも米国有数の商業銀行としての強い体力を裏付けとしてロンドンにおいて証券業を本格的に展開し、こちらも今やグローバルな投資銀行の一つとなったのである。

 さてアジアにおいては、規模は大きいが長年にわたって政府当局の強い規制の下に置かれて国際化が進まなかった東京市場を別にすると、シンガポールと香港が本格的な国際金融市場であるが、どちらも性格が大きく変わりつつある。ますシンガポールだが、規模は小さいが実需取引を裏付けとするキャッシュ中心の市場であるという意味でニューヨーク型であると言える。タイ、マレーシア、インドネシアなど近隣のアセアン諸国の経済・産業の規模が拡大し、国際化が進んで来たために国際金融市場が必要になり、シンガポールがコモン・キッチンとして使われたのだ。しかしながら近隣のアセアン諸国は成長するに従って次第に自前の国際金融市場を作るようになった。マレーシアのラブアンやタイのBIBFである。昔はどの町内にも井戸があり、住民は共通の井戸をあらゆる洗い物に使っていた。ところが住民の暮しが豊かになり、それぞれの家が自分の井戸を持つようになった為に井戸端に人が集まらなくなってしまったのだ。この結果シンガポールはロンドン型に転換して高度な金融商品開発拠点としての生き残り策を模索している。

 一方香港は、1997年の中国返還以前においては特に中国経済そのものを後背地としていたわけではなく、典型的なロンドン型のオフ・ショア市場、と言うよりもむしろ欧州時間の夜間におけるロンドンのシャドウ・マ-ケットであった。ところがこうした香港のロンドン直結型裁定市場という性格は香港の中国返還に伴なって一変した。今では香港は強大な中国経済を後背地として持ち、ロンドン型の裁定機能とニューヨーク型の実需資金仲介機能を兼ね備えた、国際金融史上前例のない管理された巨大な国際資本市場へと変貌しつつある。

 中国の一国ニ通貨制度の下で香港市場が国際資本市場としての機能を担い、香港ドルはいずれカレンシー・ボードから解き放たれてゆく。これに対して上海市場は交換性が制限された国内通貨としての人民元の資金及び外国為替をアコモデートする、ニューヨークよりもはるかに実需の比重の大きい巨大なキャッシュ・マーケットとして香港と使い分けられて行くと考えられる。ロンドンとニューヨークの特徴を共に有する管理された国際資本市場香港と、交換性を欠く通貨としては世界最大規模の間接金融市場にならんとする上海。どちらもこれまでの国際金融市場のモノサシでは計れない、新たな市場モデルへと変容しようとしているのである。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2006年3月16日 (木)

2006年は「市場正常化」の年

 ゼミのOBであるY氏から、またブログ更新をさぼっているようだが何かないのか、と言ってきた。実は昨年12月以来のブログを見ていただくと分るが、予測してきた事が全部当っているので、今の市場にはあまりコメントすることがないのだ。とはいえ世間話のネタ帳のブログだから、一部繰り返しになるが今年のポートフォリオ戦略のポイントをまとめてみよう。キーワードは「市場の正常化」または「コンベンショナル・ウィズダムへの回帰」ということになる。

 2005年はエクイティの年だった。昨年8月11日付のブログ「株価の上昇は『まだ』か、『もう』か?」では、いまエクイティのポートを増やさないのは不作為の罪、と書いたほどだ。この日本株の国際的な過小評価是正が2005年末まで続いたあと大相場が終了し、何でもいいから株さえ買っておけば良かった時期はもう過ぎて、今は株価が個別の企業業績などの材料によって上がりも下がりもする正常な市場に戻ったのだ。NYダウはやっとの思いで「よっこらしょ」と11,000ドル台に乗せたものの上値が重い。ようやく金融引締めの効果が出はじめて異常な住宅バブルが天井を打った為、資産効果を追い風にした過剰消費にブレーキがかかってきたからだ。米国短期金利の上昇がやっと長期金利に波及し始め、去年グリーンスパンが「謎」といぶかった、金融引締め下での長期債価格の高止まりがもたらした逆イールド現象が解消に向っている。米国経済も金融市場もわかりやすい正常な状態に戻ろうとしているのだ。米国長期金利の先高感で高金利のエマージング債からドルに資金が逆流しはじめたため、ファンダメンタルズから乖離して提灯をつけていた中南米株が今月に入ってブラジル、メキシコ、アルゼンチン、チリ、コロンビア、ベネズエラと、軒並み2004年5月以来最大の下げを記録している。中南米株も正常化したのだ。

 日本ではようやく金融政策が正常化への第一歩を踏み出した。量的緩和が終了し、次の焦点はゼロ金利政策終焉のタイミングに移った。2月23日付のブログ「量的緩和の解除とポートフォリオ戦略」で予想した通り中長期債券価格が急落しており、JGBの利回りが5年で1.2%、10年が1.7%まで上昇する過程で昨年12月以降一時失われていた株価と債券価格とのトレード・オフが、特に中期ゾーンではっきりと復活した。わかりやすいコンベンショナル・ウィズダムが戻って来たのである。モメンタムを失った日経平均は、こうした中長期債の価格下落(金利上昇)に背中を押されて何とか16.000台前後のレベルをかろうじて維持しているだけだ。そしてもう一つコンベンショナルへの回帰という点から注目すべきは、昨日(3月15日)の春闘の決着である。2006年春の賃金労使交渉(春闘)で自動車や電機大手が5年ぶりの賃金改善に応じたのだ。これにより2002年以降続いてきた企業の賃金抑制は大きく方向転換した。もちろん業績や賃金制度の違いを反映して業種や企業によって回答のばらつきはあったが、トヨタは賃上げ・一時金とも満額回答だ。景気回復がこの背景にあることは当然だが、企業の考え方がこれまでの「株主主権」一辺倒から、かつての「従業員主権」寄りに多少軌道修正する動きが出てきたところに大きな意味がある。これもコンベンショナルへの回帰だ。

 会社は誰のものか。今日は卒業式だったのだが、3年前の卒業式が終ったあと、ある卒業生が「4年間経営学部で学んだけれど、会社は本当に100%株主のものだと言い切っていいのか、先生はどう思いますか」というメールをよこしたことがあった。長引いたデフレの下で日本人は全員自信喪失モードに陥り、小泉・竹中の市場至上主義にあまりにも長く飲み込まれすぎてコーポレート・ガバナンスの考え方は一時「株主主権」一色となった。海外の旺盛な需要に対応して設備投資をはじめとする主な経営資源は専ら海外拠点を中心に配分され、企業収益はここ数年間海外事業の好調を反映して連結決算ベースでは史上最高益を更新し続けてきたが、国内での雇用・賃金は抑制され、国内での雇用形態が正社員から派遣社員・パート社員へと大きくシフトした。このため企業収益が絶好調なのに経済が長い間デフレから脱出できなくなり、この過程で「株主主権」は堀江の時価総額経営へ、さらに村上の脅迫ファンドへとエスカレートし、そして自壊しはじめたのだ。だが労働市場は既に昨年コンベンショナルに回帰しはじめた。採用が売り手市場に大きく転換する中、派遣社員から正社員への逆シフトが始まったのである。昨年多くの経営者から「派遣社員には高いモラールや忠誠心を期待できない」「サービス残業も頼めない」という声を聞いた。こうした流れの中で今年の春闘で多くの企業が経営資源を労働者に戻しはじめ、「従業員主権」の復権がはじまったのである。

 市場が正常化してコンベンショナル・ウィズダムに回帰してくるとなると、ポートフォリオ構成は当然エクイティーからFixed Incomeへのシフトを進めることになる。エクイティーはスクイズして長期投資銘柄に絞り、エクイティー・ファンドはロング・オンリー・タイプからロング・アンド・ショート・タイプにシフトする。円債は市場が神経質なので、パニック的に売られる局面も利用しながらディーリング的にこまめに持ち値の手入れを行いつつスクイズして行く。そして厚くなったキャッシュの投入先は、Fixed Incomeを一ひねりしたJ-Reitや、円投でのエキゾチック・ハイイールド債を見直してはどうだろう。ただ南ア・ランド債は流動性に難があり、またランドの対円為替売買幅が極めて大きく、多少の金利差ではカバーできないため、ここは豪ドル債を中心に考えたい。ただし今は為替が対円で高所恐怖症的水準にあるから、ここしばらくはもう少し為替を慎重に見極めて行くつもりである。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

« 2006年2月 | トップページ | 2006年4月 »