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2006年1月25日 (水)

外貨準備と中国

 人民銀行の発表によると2005年末の中国の外貨準備が8189億ドルに急増したとのこと。今年中に日本(同約8469億ドル)を抜いて世界一になるだろうと推測されている。だがアメリカの外貨準備は中国の10分の1だ。外貨準備が多いとどんな良いことがあるのだろうか。これを機会に外貨準備の見方、考え方を整理してみたい。

 外準は国の対外支払準備であり、その最低必要保有額は通常対外支払債務の3ヶ月分と言われている。これは対外資本取引を厳しく制限している国であれば輸入の3ヶ月分とみなし得るから、そこから計算すると中国の外準の最低必要ラインは約1400億ドル(2004年基準)となり、中国はその6倍近くの外準を保有していることになる。同じ基準で計算してみると、日本の輸入の3ヶ月分は1170億ドル、外準はその7倍強であり中国と大差ないが、米国の輸入の3ヶ月分は4500億ドルで、外準はその20%にも満たない。ドルが基軸通貨だから米国は外貨を保有する必要がなく、対外決済に必要であればドルをいくらでも発行すればよいのだ。

 米国以外の国が最低必要額を超えて外準を保有する意味は二つある、一つは資本取引にかかわる対外支払債務のカバーだ。国際間の資金移動が貿易取引だけなら外準は輸入の3ヶ月分でよいが、資本取引を自由化している国の場合にはそれよりはるかに大きい支払準備が必要である。ところが資本取引の規模は貿易取引と違って常に大きく変動していて、あらかじめ見当がつけられないから、外準がいくらあればよいのかを判断する基準が作りにくい。ただ資本取引を自由化していない中国が最低必要額の6倍近くの外準を保有していることは、アメリカから見ると輸出のし過ぎ、外準の貯め過ぎであり、人民元相場をフロートさせるか切上げるかして貿易黒字を減らしてもらいたい、という事になる。もう一つは外準が多ければ多いほど経済政策の裁量の余地が拡大するという点である。香港はカレンシー・ボード制(金本位制における金準備を外貨準備に置き換えた制度)を採用しているが、香港以外でも実質的なカレンシー・ボード制を採る国は多い。かつての日本も戦後長い間経済政策が外準に制約される時代が続いた。景気が上向いて輸入が増加し、外準が減少すると内需を抑制せざるを得ず、国内景気にブレーキがかかった。当時「国際収支の天井」と呼ばれたこの実質的カレンシー・ボード制は輸出主導の高度成長期に入るまで続いたのである。現在も多くの発展途上国が外準を睨みながら内需やハイパワードマネーをコントロールしているが、こうした実質的カレンシーボード採用国では外準が多いほど経済政策の裁量の余地が大きくなる。

 次に外準にも名目と実質があることに注意しよう。名目外準は国際収支統計として公表されている計数にすぎないが、実質外準は当該国の政府が実際に使用できる支払い準備であり、より重要な概念である。実質外準の値は「名目値+-コミットメント」を計算して求める。名目値に加算するコミットメントとは直ちに使用できる外貨のクレジットラインのことで、コンディショナリティーに縛られたIMFの融資枠のような直ちに引き出せないものは含めない。アジア通貨危機以降2国間・多国間の緊急支援枠が整備されて来ており、チェンマイ・イニシアティブ(懐かしい!)はこの典型だ。逆に名目値から差し引くのは、当該政府が先物で民間セクターに対して外貨の売却をコミットしている残高のうちの短期部分(1年以内)である。民間が自国通貨を「外貨借入+スワップ」で調達し、政府がその先物カバーに応じている場合は、政府は先物で外貨を民間セクターに売却する約束をしている。その部分は政府が勝手に使ってしまうわけにはいかない外貨であるから名目値から差し引くのだ。ただこうしたコミットメントは国際収支統計には計上されておらす、特に名目値から差し引くべき支払いコミットメントはほとんど対外公表されていないため、様々な情報源から推測するしかない。

 また、国によって外貨の地方政府から中央政府への集中度が上昇すると外準が急に増加したように見えることがある。地方分権が進んでいる国においては地方自治体が中央政府とは別に独自に外貨準備を保有している場合があり、中央政府もこれを把握しておらずコントロールもできない。かつての中国がその典型である。鄧小平の南巡講話を契機にまず広東省から本格的な経済発展が始まり、沿海部の各省が発展を競う中で省単位で行政も経済もかなりの程度自己完結する、ミニ連邦制的な体制がいったんは成立した。ところが1998年以降各省ITIC(国際信託投資公司)の破綻が相次ぎ、中央政府は国全体としての経済のマクロ・コントロールを強化する必要に迫られた為、外貨管理の中央集権化を進めた。2000年以降の中国の外準急増には、地方自治体の外準が単に中央政府に移管されただけにすぎない部分が少なからず含まれていると言われている。

 最後に、外準の増減と経常収支尻からトータルの資本取引を逆算することができるという事を覚えておこう。経常収支と外準増減との落差が誤差脱漏も含めた資本取引の合計である。そこからネットの直接投資を差し引けば、内外のポートフォリオ性資金の動向の見当をつけることが出来るのだ。投機的な短期資金の動きを調べる時には結構使えるツールだが、それでもコンティンジェント取引まで正確に捕捉することはできないという事には十分注意しておこう。

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