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2005年12月29日 (木)

イールド・カーブの金融論

 12月28日付ブログ「逆イールドの歴史と現実」では、今回の米国金利の逆イールド現象が果して景気後退の予兆であるのかどうかについて過去の事例を振返って検討してみた。今回はその補論として、同ブログで紹介した若松幸嗣(2001)を手掛かりとしてイールド・カーブの形成理論を整理しておく。
 
 イールド・カーブの形状が何によって決まるのかを説明しようとする理論モデルは金融論の言葉では「金利の期間構造理論」と言われる。以下代表的な理論と、それぞれがどんな場合に使えたり使えなかったりするのかについて見て行く。

(1)期待仮説。「長期金利は短期資産をロールオーバーした運用収益率に等しくなる」、すなわち「長期金利は将来の短期金利の期待値から想定される収益率によって決まる」というもの。だが実際には、短期金利の期待値はスタート時点が将来になればなるほど変数としての幅が大きくなってしまうので、長期金利体系の形成よりも短期のフューチャーズの価格形成を扱う場合により適する考え方である。
 
(2)流動性選好仮説。期間毎のプレミアムを想定し、残存期間が長いほど手元流動性(キャッシュ)をあきらめる対価としてのプレレミアムが大きくなるとする考え方。債券の二次市場が未発達で、流動性をあきらめなければ長期債投資が出来なかった時代の仮説である。今では5年債、10年債を期日まで保有するつもりで買う人はあまりおらず、債券は専らポートフォリオ操作の対象として価格本位に売買されていて、長期金利が長期債価格の逆数にすぎなくなってしまったから、この仮説はもうあまり当てはまらなくなった。またこの仮説だけでは逆イールドを説明できない。但し流動性の乏しい債券や流通市場が未発達の国ではまだ一定の説明力を持つ仮説である。

(3)特定期間選好仮説。債券市場は残存期間毎に分断されており各期間毎の需要と供給から利回りが決まるとする考え方。イールド・カーブの立ったり寝たりを予測する場合や期間ごとの債券価格と株価のトレード・オフの強弱を見たい場合に適している。

(4)フィッシャー仮説。「名目金利は実質金利と期待インフレ率の和になる」とする。これ自体は実質金利の定義式にすぎず、対象とする変数が恣意的にならざるを得ない為ポートフォリオ操作のツールにはなりにくいが、判断に迷った時などに「原点に返る」為には覚えておくとよいかもしれない。

(5)リスク構造仮説。異なる期間の水平的な金利格差(イールド・カーブの形状)を説明する(1)-(4)とは異なり、同一期間における信用リスクや流動性などから生じる垂直的な金利格差を見る視点である。例えば信用リスクを国債利回り(ベンチマーク)に対するスプレッド(上乗せ幅)として説明する考え方であり、要は借り手の資金調達コストが信用力に応じて変わる、と言うこと。実務上も格付けやデフォルト確率とリンクさせて広く使われている考え方である。

 以上から明らかなように単一の理論モデルでイールド・カーブの形状を説明し尽くすことは不可能であり、若松幸嗣(2001)も「(1)ベースとする理論モデル、(2)説明変数の選定、(3)モデルの形式、(4)予測期間毎のモデルの使い分け、(5)異なる期間モデルの接合、(6)推計期間などを考慮しつつ、適合性がよく使いやすいモデルを模索することになる」としている。その意味するところを初学者にわかりやすく言い換えると、イールド・カーブの形状を説明しようとする理論は数多くあるが、もっともよく当てはまる理論は国ごと、時期ごと、状況ごとに異なるから、その時々で最も適切な理論の組み合わせを探し出さなければならない、ということなのである。

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