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2005年12月15日 (木)

2005年はM&A元年?

【要旨:2005年に試みられたほとんどの敵対的買収が失敗に終ったのは、Due Diligenceをないがしろにした為にステーク・ホルダーの支持を得られなかったからだ。また2005年はMBOを含む様々なポイズン・ピルが試され、戦略的・法的評価が固まって行った年でもあったから、むしろポイズン・ピル元年と言うべきかもしれない。】

 2005年はM&A元年だったのだろうか。ゼミのOBであるY氏から「最近ブログの更新をさぼっているようだが、2005年を振返ってM&Aのことでも書いたらどうか」とのリクエストが来たので、まとめて見た。

 これまで日本では、業績不振企業再生策としての外資によるM&Aないし資本参加は珍しくなかったが、2005年は日本資本による日本企業に対する敵対的買収がはじめて本格化した年であった。また被買収側企業も様々なポイズン・ピル(買収対抗策)を試した。以下今年話題になった3つの敵対的買収事例を振り返ってみる。

ケース1・ ライブドアvs.ニッポン放送/フジテレビ

主要な論点は次のようなものであった。

・TOBのル-ル。証取法は「市場外取引」で大量の株式を取得する場合TOBを義務付けているが、ライブドアはTOBによらず、東証の「立会外取引システム」による取引でニッポン放送株を取得した。「市場外取引」ではないからTOBは強制されないものの、法の盲点をついたもので、他社でも二度とは使えない。

・転換価格の修正条項付き社債(MSCB)。ライブドアがニッポン放送株取得資金の調達のために発行した。投資家には有利なスキームであり、発行体は必ず資金調達できる。株式の希薄化につながるおそれはあるものの合法取引であり、今年は他社でも発行が急増した。

・新株予約権。 ニッポン放送がライブドアの買収攻勢に対抗するため、フジテレビに対して新株予約権を発行しようとしたが、東京高裁は「経営支配権の維持・確保を目的にした発行は不公正」として認めず、ポイズン・ピルとしての限界が明かになった。

・貸し株。日本放送が、自らが保有しているフジテレビ株を大和証券とソフトバンク・インベストメントに貸し出すことにより、フジテレビの大株主の座を降りることでライブドアの買収攻勢を無意味にしようとした。それなりの効果はあり、法的問題もなく、和解後に返却された。

・クラウンジュエル。優良子会社を手放すことによって自社の価値を低下させ、買収の意義そのものを後退させる手法。ニッポン放送が優良子会社であるポニーキャニオンのフジテレビへの譲渡を検討したが、株主権の毀損が著しいため実行には至らなかった。

 本件抗争は結局フジがライブドアの保有するニッポン放送株全株を買い取るなどで同放送を完全子会社し、また第三者割当増資の引き受けでライブドアに12.75%出資して非常勤取締役を派遣する形で決着。着地は伝統的な株式の持合いであった。業務提携に関しては推進委員会が設置されて連携策を模索したが、結局見るべき成果なく解散の運びとなった。フジのニッポン放送株買戻しによるライブドアの差益は僅少であり、仕掛けたライブドアとしては株式差益もビジネス上のシナジー効果も得る事ができなかった。この原因はライブドア側に経営統合についてのDue Diligence(対象企業の価値に影響する様々なリスクについての経営的・法的側面などからの多角的な精査・評価)が不充分であり、その為フジのTOBに応じた既存株主だけでなく視聴者、フジ/ニッポン放送の役職員、更には一部タレントに至る主要なステーク・ホルダー(利害関係者)から経営統合のメリットについての納得を得られなかった為である。夢だけでは市場を有効に説得できなかったと言える。

 だが一方でライブドアが本抗争から確実に得たのは戻ってきたキャッシュとパブリシティであり、本業の収益にとっては大きなプラス効果があったと思われる。堀江社長の衆議院選挙立候補も、周到に計算され尽したパブリシティ効果を狙った行動だったと考えられる。

ケース2・村上ファンドvs.阪神電鉄

 村上ファンドは阪神電鉄株を42%まで買い進み(12月10日現在)、タイガース球団上場や不動産再開発戦略の見直しを求めたものの、現在のところ阪神電鉄側とは十月のトップ会談で「阪神電鉄の企業価値の向上に向け協力する」ことを合意したのみ。買い進めた株式の処理も決まっておらず、まだ勝負はついていないが、阪神電鉄側が特段のポイズン・ピルを用意していないにもかかわらず強気な姿勢を崩さないのは、ライブドアのケースと同様村上ファンドが阪神ファンを含めたステーク・ホルダーからの支持が得られていないからである。それというのも村上ファンド側のDue Diligenceがライブドアのケースに比べてもはるかに不完全なものだったからだ。本件はステーク・ホルダーの意向そのものが強力なポイズン・ピルとなっている典型的な事例であり、村上ファンド側がこのまま更に過半数まで買い進めた場合に果して市場のサポートが得られるのかどうか、大変興味深いところだ。

ケース3・楽天vs.TBS

 楽天が仕掛けたTBSに対する敵対的買収は、11月末に和解・業務提携交渉入りの覚書締結で一応の決着となった。その内容は楽天が経営統合提案をいったん取り下げ、楽天のTBS持ち株比率を10%未満に引下げ(超過分は議決権を凍結)、放送とネットの連携を協議する業務提携委員会を作る―というもの。業務提携・株価採算ともに未決着だが、ここまでは楽天の全面敗北である。しかも印象的なことは、この和解案がみずほコーポレート銀行の作成・仲介によるもので、斎藤頭取の立ち会いのもとで井上TBS社長と三木谷楽天社長が調印したという事実だ。驚いたことに、いまだに両社にとって最大のステーク・ホルダーは銀行であり、楽天のDue Diligenceがステーク・ホルダーとしてのみずほコーポレート銀行の支持を得られなかったのだ。阪神電鉄と異なりTBSはポイズン・ピルを用意してはいたが、その発動に至るまでもなく買い進めた株式の議決権が凍結されては一体何のための買収だったのか、楽天にしてみれば断腸の思いだろう。楽天が妥協したのは資金調達リスクが理由だ。市場原理に基づいて株式を取得して株主権を主張しようとした楽天だがDebtでのファイナンスには限界があり、間接金融の軍門に下るという皮肉な結果に終ってしまったのだ。これもまた2005年版日本型M&Aモデルとなった。

 ポイズン・ピルに関しては、自社株買いやMBOによる非上場化も目立った。特にMBOはリクルートコスモス、学研クレジット、ワールド、ポッカコーポレーション、テクノエイトといったトップ・ネームが相次いで実施し、軒並み成功を収めた。今年の敵対的買収が不充分なDue Diligenceの結果ステーク・ホルダーの支持を得られず、結局は昔ながらのパターンの決着に落着いてしまった反面、MBOを含めた様々なポイズン・ピルの効果や合法性が試され、確認されたわけで、2005年はむしろ「ポイズン・ピル元年」と名付けるべきかもしれない。また最後に、こうした買収の仕掛けや株式持合の意義の再評価、MBOや自社株購入などが株式の需要要因として今年の株価上昇に少なからぬインパクトを及ぼしたことを付言して筆ならぬマウスを置くこととする。

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