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2005年9月 8日 (木)

EU統合の行方(その5)

(その4から続く)

ユーロの長期ポートの正解はロングかショートか。その答えを探すのが「EU統合の行方」シリーズの目的だ。EUには統合に向かう求心力とバラバラになろうとする遠心力が共に働いており、過去欧州の軌道はその時々の二つの力のバランスによって決まって来た。これまでこのブログの「その1-4」ではドイツとフランスの抗争がキリスト教の展開と重なり合いながら遠心力として働いて来た事を確認したので、今度は数回にわたって欧州の求心力としてのキリスト教に焦点を当ててみる。今回はその前置きである。

まず二つ仮説を立ててみよう。
(1)単一民族・単一言語の国家は多民族・多言語の国家よりも経済発展しやすい。
(2)多民族・多言語の国家が経済発展を遂げるためには、国民の気持を一つにまとめる共通スローガンが必要である。

この仮説の検証はアカデミック・ハットを被ってライフワークとして取り組むつもりだが、このブログはアカデミック・ハットを脱いで世間話のネタ帳として書いているので、これらの仮説が正しいとするとどういう事になるのかを考えてみたい。

単一民族・単一言語国家は、例えば日本、韓国、多くのEU各国。多民族・多言語国家は、例えばアメリカ、中国、インドネシア、インド。多民族・多言語国家のうち統一スローガンがないインドネシアやインドは経済発展が遅い。ではアメリカはどうか。ドル紙幣には "In God We Trust" の文字が印刷されている。(幸福のシンボルであるヤモリがデザインされたニューヨーク州イサカの地域通貨HOURsの紙幣には、これをもじって "In Ithaca We Trust" という印字がある。)アメリカの共通スローガンは主への信仰だ。デモクラットもリパブリカンも日曜日には教会に集い、WASPは賛美歌に、マイノリティはゴスペルに陶酔する。今アメリカのマイノリティの間でイスラム教が急浸透している事は、後世の歴史家が「パクス・アメリカ-ナの終焉の始まり」として位置付ける事になる現象なのかもしれない。だとするとドルの長期ポートはショートが正解ということになる。では中国はどうか。多民族・多言語国家である中国の経済発展の秘密は共通スローガンを持った事だ。「抗日」である。日本の総理大臣が靖国神社を参拝しようとしまいと、また日本の教科書が歴史をどう扱おうと、中国は経済発展の為に「抗日」を必要としているから、日本の地政学リスクが消えることはない。だとすると円の長期ポートはショートが正解か。

ドルも円も長期的にはショートが正解とするとユーロをロングにするしかないが、それに加えて多民族・多言語地域である欧州に共通スローガン(=求心力)があるなら鬼に金棒だ。通説が欧州の共通項として挙げるのは、以前のブログで紹介した通りヘレニズム、ゲルマン的社会構造、そしてキリスト教だが、ヘレニズムはガロ・ロマーノ圏とグレコ・ロマーノ圏に分かれており、ゲルマンもドイツ圏とフランス圏とでは密度が段違いだ。だからこそEUの遠心力を「ドイツとフランスとの対立」を軸としてとらえる意義が大きい訳で、EU全体の共通スローガンとなり得る可能性があるのはキリスト教だけだ。キリスト教の遠心力については既に論じたので、次回以降数回にわたってその求心力としての面を考えて行くことにしたい。

(その6に続く)

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