« 改憲とわが国の経済(その1) | トップページ | EU統合の行方(その1) »

2005年8月22日 (月)

改憲とわが国の経済(その2)

(今週はストラスブールから出稿しています)

「その1」では、国家の安全保障には財政負担が伴うこと、従って日本が改憲を選択した場合は財政支出の固定化が一段と進み、償還原資のない国債の増発が不可避であることを明らかにした。今回は自前の安全保障体制の下で高い国富水準を享受しているスイスの事例を検討し、またわが国の財政負担増への対策について考えてみることとする。

スイスは多民族・多言語の小国である。にもかかわらずEUにもNATOにも加盟せず、独力で安全保障を確保し、経済の繁栄を享受しているのはなぜなのだろうか。その秘密は、「スイスのナカミはカラッポだ」ということである。今年三月、文化放送がライブドアからの敵対的買収への対抗手段として、優良子会社であるポニーキャニオンのフジテレビへの売却を検討したことがあった。自らの企業価値を低下させることによって相手方の買収意欲をそぐ、クラウン・ジュエルと呼ばれている手法である。スイスの安全保障はこのクラウン・ジュエル方式に似ている面がある。

スイスはもともと多民族・多言語であり、国民の地域コミュニティーへの帰属意識が極めて強い。歴史的には自営農民間の盟約がこうした地域ごとの結束の基礎を形成した。スイス人は自分の手が届き、お互いの顔が見える生活範囲を非常に大切にするため、共同組合が極めてさかんであり、1934年に設立されたWIRは現在多くの国・地域で採用されている地域通貨のモデルの一つとなっているほどである。逆に言えば、スイス人は手が届き顔が見えるコミュニティーの外側の世界にはあまり関心・執着を示さない。スイスの産業史を調べてみると、多くのスイスの企業がはじめから生産サイトの立地にこだわることなく多国籍化、というよりむしろ無国籍化を進めてきたことがわかる。その背景にはこうしたスイス人の生活観があるのだ。だからスイスに本社機能があったとしてもそのナカミはカラッポで、いつでもどこへでも移転して構わないのだ。アルプスの山国という地理的条件に加えて、国として守るべきものを最初から国内に保持しないという国民性が、スイスが永世中立国として独力の安全保障体制の下で平和の配当をフルに享受できている大きな理由の一つなのだ。

こうしたスイスの安全保障モデルをそのまま日本にあてはめるには当然大きな限界がある。山岳国家と海洋国家、少人口国家と多人口国家、多言語国家と単一言語国家。スイスと日本は、国土が小さいという共通点を除けば対照的な国であり、簡単に日本は東洋のスイスを目指せなどとはとても言えない。今後の日本がスイス・モデルから学ぶものがあるとすれば、それは地域コミュニティ-の重視と、極端なまでの産業の国際化(=無国籍化)であろうが、これらの点についての詳しい議論は別の機会に譲り、話をわが国の財政問題に進めたい。

スイス・モデルに限界があり、わが国の改憲に伴う財政負担増が避けられないとすれば、どうすればよいのであろうか。結論から述べるとDebt-Equity Conversionがヒントを与えてくれるのではないかと考える。Debt-Equity Conversionとは経営危機に瀕する企業を債権者が救済する手段の一つであり、債務者に対する債権を株式に転換することをいう。債務者は債務返済を免除され、代りに新しい株主を受け入れることになる。企業体は基本的には営業活動の中から返済原資が生まれる資産(典型は売掛金、棚卸資産、生産設備など)の取得のための資金を負債で調達し、経営上必要ではあるが通常の営業活動の中からは返済原資が生まれない資産や経営自体に不可避的に付随するリスク(典型は製薬会社のR&D)には資本を充てる。これを国家財政に当てはめて見ると、通常の一般歳入からは返済原資が生まれない国防費は返済義務のない資本金で調達するべきだということになる。もちろん国家は株式会社ではないから資本調達を行うことはできないが、きわめて類似した方法として永久債(Perpetual Band)の発行がある。変動利付債またはインフレ連動債とし、かつ相続税対象資産に含めないことにすれば、多大な需要が期待できる。さらに期限付、無利息かつ相続税対象外の新種国債発行を併用すれば、わが国の財政赤字問題の抜本的な解決に必要な長い年月を乗りきる有効な手段の一つとなるのではないか。

わが国の長期金利が上昇基調に転じ、イールド・カーブのフラット化が進行してきた為、国にとっても個人投資家にとっても大ヒット商品となった個人向国債の魅力が薄れた。これに代る商品開発が急がれる中で、上記のような新種国債の検討が待たれるところである。

|

« 改憲とわが国の経済(その1) | トップページ | EU統合の行方(その1) »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/107417/5552851

この記事へのトラックバック一覧です: 改憲とわが国の経済(その2):

» ODAと地域通貨 [地域通貨を始めたい方に(地域通貨千夜一夜物語)]
国際開発アソシエイツ(株)http://www.idea-jpn.co.jp/の役員会に出てまた勉強しました。 今のODAが有効ではないのではないか?受け取り国の権力者の懐を肥やしているだけではないか?このような不審、疑問は国民の等しく持つところです。ODAをビジネスとしているわが社も同じ悩みを共有しています。そこで来期からの努力を、正しい効果的なODAを模索しましょうとなった。私は役員会でこのような話が出る会社は素晴らしいと�... [続きを読む]

受信: 2005年8月25日 (木) 09時10分

« 改憲とわが国の経済(その1) | トップページ | EU統合の行方(その1) »