« 国債は本当に危険な商品か | トップページ | 今週のFT週末版より »

2005年7月 8日 (金)

テロと戦争の経済学

7月7日、このブログでかねてから指摘してきた地政学的リスクがまた顕現してしまった。ただ今回のロンドン同時多発テロ直後の市場の反応は2001年のNYテロとはかなり異なる。2001年のNYのケースではドルが急落し、株は主要市場で軒並みサスペンド/ストップ安となった。今回は為替面ではポンドが多少売られただけで、ドルも瞬間的に売られたあとは戻り高だ。また、別の地政学的リスクを抱える円(後述)は続落となった。株はNYダウ・日経平均ともに個別銘柄への影響(兵器・建設業買、観光業売)にとどまり、FT100が1.4%下落しただけだ。もっともNYダウ・日経平均の現水準はいずれもほぼ一年前と同じなのにFT100だけが約20%上昇しているので、この程度の下落はポジション調整の範囲内と言える。このようにテロ直後の市場の反応は落ち着いたものだったが、果報を寝て待つ中長期的スパンでは別の見方が必要だ。

戦争当事国の経済には財政負担がのしかかり、停滞する。(朝鮮特需で潤った当時の日本は戦争当事国ではなかった。)一般公共事業に使われる財政支出は、その是非に多々議論があるものの、形のある社会資本(道路、ダム、空港など)が残り、雇用創出効果がある。ところが同じ財政支出でも、軍事費は在庫や設備の廃棄と同様、経済的にはトータル・ロスとして消えてなくなってしまうのだ。ベトナム戦争・東西冷戦はいずれも重い財政負担がアメリカ経済の構造的疲弊を招き、ベルリンの壁崩壊で冷戦が終焉したあとは世界中で解放された軍事費が資産バブルに向かった。ところが今世界は再び戦争の時代に向かいつつあるように見える。そのキーワードは二つ。「イスラム」と「中・ロ接近」だ。

イスラムについてはこのブログで頻繁に取り上げてきたので、過去ログをご参照願いたい。イスラムに関わる地政学的リスクには1300年の歴史的背景があり、NYテロ、アフガン、イラク、ウズベク問題、フランスの欧州憲法条約批准否決などはいずれもこれが顕現化したものだ。今回のロンドン・テロのように、これからもいかなる形でいつ顕現化するか予知できない、終わりの見えないリスクなのだ。中・ロ接近については先日の中・ロ首脳会談の記録を是非精読してみていただきたい。両国の急接近から冷戦時代の復活を示唆するメッセージが読み取れるはずだ。「イスラム」と「中・ロ接近」。この二つのキーワードは、1990年代に解放され、世界中にばら撒かれた軍事費に再び召集がかかった事を意味する。

この中で日本は更に独自の地政学的リスクを抱えている。一つは指摘するまでもなくアジア近隣諸国との政治的・軍事的緊張、もう一つは大地震災害の可能性の高まりである。財政負担は増えるばかりで赤字改善の見こみは全く立たず、エネルギー価格の上昇は今後ボディー・ブローのようにジワジワと利いてくる。また銀行の不良債権処理が終了したため、国債の利回りを低水準に固定して銀行のトレジャリー収益を支援する必要がなくなったことから、日銀が量的緩和終焉のサインを送るタイミングは近い。その時世界中の投資家のJGB(日本国債)売りは空前の規模となるだろう。ポートフォリオ戦略としては、JGBを早めに処分してとりあえず円キャッシュを厚くしておき、高格付のソブリン外債(これも質への逃避)を仕込む為替のタイミングを窺いたいところだ。

ということで来週JGBの売りオーダーを出します。

|

« 国債は本当に危険な商品か | トップページ | 今週のFT週末版より »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/107417/4879503

この記事へのトラックバック一覧です: テロと戦争の経済学:

« 国債は本当に危険な商品か | トップページ | 今週のFT週末版より »